天嶺堂

同人小説サークル「天嶺堂」のブログです。

探偵桜内梨子の推理を考える

「HAPPY PARTY TRAIN」収録のドラマパート「怪奇!真夜中のミステリー」で名探偵ぶりを見せた桜内梨子
その推理はどのような経緯で組み立てられたのでしょうか。

はたして彼女は本当に名探偵だったのか、本編から得られる情報をもとに考えていたいと思います。


なお、音声のみの情報しかない関係上推測がかなり混ざるため、厳密に言えば推理ではありませんが、出来る限りそれっぽく梨子の思考を構築してみようと思います。
明記されていない部分を想像して、自分がこのシナリオで推理物を書くならこんな流れにするよというプロットに解説を交えたものだと思ってください。

 HPTをまだ聞いていない方は見ない方がいいよ!

 

 

〇前提

・自分が気付いた証拠や証言などは全て梨子も把握している事とする。

・事件の舞台であるバンガローは実物と同じ構造である事とする。

 

 

〇推理の目的

ドラマパートを聞いた方が見る事を前提としているので事件の説明は省きます。
梨子の目的は「部屋からこっそり抜け出そうとして球に躓いた人物の特定」になります。
ダイヤを除いた他のメンバーは「球を転がしてピンを倒した人物の特定」になります。

同じようですが、目的からして微妙に異なっているのが面白いですね。

 


〇大瀬テント村のバンガローとは?

では、事件の舞台となる大瀬テント村のバンガローについての情報を見てみましょう。
残念ながら現地には行った事がないので公式HPによる情報のみとなりますが、こんな感じです。

・広さは六帖一間+ロフト五帖
・本来の定員は8人
・ロフトとの行き来は梯子に近い傾斜の階段を使用
・トイレの有無は不明

なお、大瀬テント村は基本的に予約不要ですが、バンガローのみは予約制だそうです。
事情を聞いた管理人が貸してくれたのでしょうが、空いていたのは運が良かったですね。
また、近くのダイビングショップにレストランもあるようです。
場合によっては食料を探しに行かなくてもなんとかなったかもしれません。

 


〇容疑者をどう絞り込むか?

大まかなバンガローの状況は分かりました。
ここに重要な情報が含まれています。
バンガローの一階部分の広さは六帖しかありません。
各自の荷物や千歌がボウリングのピンを並べたり、球が転がるスペースがあったと考えると、寝床に使えるのは実質的に四帖~四帖半程度でしょうか。
残りはロフトで寝る事になります。
恐らく、梨子も最初にこの点に着目したと思われます。
ロフトから下に降りるためには急な階段を使います。
明かりがない状態で降りるには危険ですし、結構な音もするでしょう。
ダイヤが二回目に抜け出そうとした時、梨子はまだ起きていて意識がはっきりしています。
階段を降りる音を聞き逃していたとは思えませんので、これよりロフトに寝ていた人物は除外されます。
ただし、これはあくまで梨子のみが行える推理です。
残りのメンバーはドアの前に人が立っていたことを知らず「ピンを倒す事が出来た人物」という条件で犯人を絞り込もうとするため、「二階から物を投げた物に当たった球が転がった」などの可能性も完全には排除しきれないのです。
もちろん、常識的に考えればそんな事をする必要がないので、最終的に誰も名乗りを上げなければ「近くで寝ている人が蹴とばした」辺りで落ち着いていたかもしれません。
ダイヤにとってはこれが理想だったでしょう。

 

〇容疑者の絞り込み(第一段階)

では、一階に寝ていたのは誰か?
残念ながら、本編の音声だけでは完全な配置は分かりませんので推測が多くなりますが、可能な限り検証していこうと思います。
まず、犯人であるダイヤは確実でしょう。
彼女は最初から一人で抜け出す前提で来ています。
わざわざ抜け出すのが困難なロフト部分で寝ていたとは思いえません。
また、寝る時に電気を消したのは彼女です。
バンガローの電気のスイッチがどこにあるかは分かりませんが、普通は入口の付近でしょうから、ロフトに寝ていたと仮定するのは無理があります。
そして、千歌もほぼ確実です。
彼女は梨子を含めて誰にも気づかれずにボーリングのピンを並べています。
梨子が最初勘違いした事からも、千歌が一階の、しかも扉に近い位置に寝ていた可能性が高いと考えます。
次に果南です。
彼女はダイヤがピンを倒したあと、電気を点けています。
これもダイヤ同様スイッチの近くで寝ていたからだと考えるのが妥当でしょう。
わざわざ真っ暗な中ロフトから降りてきてスイッチを操作するとは思えません。
そして、梨子です。
彼女は推理の大詰めの段階で彼女は自らも容疑者に含まれることを認めていますので、一階で寝ていたとみていいでしょう。

以上の四名が確実に容疑者の圏内と入る人物です。
残りは五名ですが、この中でルビィと花丸は確実にシロです。
実際行った人のブログを見ると、大瀬テント村には外灯の類はほぼ存在しません。
カーテンも閉めていたでしょうから、月明りぐらいでは役に立ちません。
ルビィは電気が消えただけで怯えるような子です、真っ暗闇の中でライトも持たずに活動する事は不可能でしょう。
また、花丸はルビィの隣で手を握って寝ています。
もしも彼女が一階で寝ていたとすると、自動的にルビィも一階で寝ていたことになります。
そうなると、上記の容疑者を含めて六名。
六帖の空間に六名が横になり、かつ荷物やボウリングのスペースを確保するのはまず無理でしょう。
これで残りは曜、善子、鞠莉の三名です。
この三名については、残念ながらどこで寝ていたか確認する根拠は見つけられませんでした(もしも聞き逃しが教えてくださると嬉しいです)
一応はこの三名も容疑者に加えて次へ進みましょう。


〇容疑者の絞り込み(第二段階)
第一段階では寝ている位置から花丸、ルビィの二名が容疑者から外れました。
意外と絞り込めませんでしたね。
では、梨子を除いた六名の言動を見て、より絞り込んでみましょう。

・千歌
ピンを並べた張本人である千歌はシロです。
少なくとも、一回目の時にはアリバイがあります。
梨子が千歌の声を聞いて自分が見たのは彼女ではないとすぐに認識した事から考えて、明らかにドアとは違う方向から聞こえてきたのでしょう。
彼女は二回目の時にもピンが倒れると同時に寝ぼけて大声を張り上げています。
もしも彼女が犯人なら声を張り上げるメリットは何もありませんし、実際彼女は自分の寝床で寝ていたわけですから、当然梨子には同じ場所から聞こえたはずです。
そのため、最初の段階で容疑者リストから外れる事になります。

・果南
グレーです。
犯人探しには積極的はなく、確実に一階に寝ていた人物の一人でもあります。
ただ、積極的に彼女を疑う理由も特にありません。

・ダイヤ
当然ながらクロです。
球に躓いたという、梨子の推理の決め手となる発言もしていますし、一回目の時もよく聞いてみると皆が寝ぼけた声で喋る中、一人だけはっきりとした声で話しています。

・曜
グレーです。
犯人探しには積極的ではなく、もしも一階で寝ていたとしたらこの段階では候補に残るでしょう。
ただし、果南同様積極的に疑われる理由はありません。

・善子
シロに近いでしょう。
彼女は犯人探しに積極的です。
疑いを逸らすための偽装とも取れなくもないですが、それにしても率先して犯人探しをする空気を作っているので、梨子は疑わないでしょう。
また、これは完全に想像ですが、ルビィと花丸がロフトで寝ていてたら、彼女はそっちに行く気がします。

・鞠莉
グレーです。
しかし、他の二人と違って彼女は熊の幽霊犯人説などで場を掻き乱しています。
もしかしたら、うやむやにしようとしているのではないかと疑われるかもしれません。


以上により、千歌と善子が候補から外れました。
容疑者ではない人間を排除する、という考え方ではこの辺が限界でしょうか。


〇犯人の特定

さて、容疑者は四名に絞られました。
ここから、犯人ではありえない人間の選定から、梨子は犯人を特定に思考を切り替えます。
そう考えると、当然ながら真っ先に疑うべきはダイヤです。
では、彼女がなぜ犯人と推理出来るか?
推理段階で自分が見つけられた根拠は以下の三点。

・犯人探しを露骨に避けている
・一回目の時に一人だけ意識がはっきりしていた(と思われる)
・見ていた梨子と犯人しか知りえない「ボウリングの球に躓いた」という発言をしている

特に最後は決定的で、これがなければ本編でも梨子は告発に踏み切らなかったかもしれません。


桜内梨子の追求

ついに犯人はダイヤだと確証を得て告発した梨子。
しかし、本当にこの状況証拠だけでダイヤを追い込むことが出来るのでしょうか?
ここではダイヤが言い逃れる可能性を検証したいと思います。

 

先に上げた三つの根拠ですが、「犯人探しを避けている」と「意識がはっきりしていた」に関しては大した問題ではありません。
それぞれ「疲れているから早く寝たい」「あなたにそう聞こえただけ」と言えばそれを否定する材料が手元にない以上、これ以上の追及が出来ません。
梨子はこれが分かっていて省略したのかもしれません。
やはり最後の砦は本編でも追及に使われた「躓いた」という証言についてです。
ですが、これも盤石とは言えません。
梨子が挙げた「誰かが球を転がした」という可能性は完全には排除しきれませんが、普通に考えればありえないでしょう。
真夜中に暗闇の中を仲間が寝ている横でこっそり球を転がすという光景はあまりに不自然です。
もしダイヤが動揺せずに「普通に考えれば足元が見えなくて躓いたんだろうと、そう思っただけですわ」と言えば、果たして梨子は反撃出来たでしょうか?

 

しかし、梨子にはもう一つの切り札がありました。
それが「足に残るぶつけた跡」です。
本編では結局のところ、跡が残っているか明確な描写はありませんでした。
ところで、事件発生時の部分を聞きなおして頂きたいのですが、件の球が転がっている時間はおおよそ7~8秒と結構な長さです。
最初の方でお話ししたように、バンガローはそこまで広くはなく、どんなに広くスペースを取ったとしても球が転がった距離は畳二帖を縦に並べたぐらいが限界でしょう。
調べてみると、一般的な畳の縦の長さは1820mm、二枚だと3640mmです。
仮に端から向かい側の壁まで転がる時間を7秒として計算しても秒速52㎝、時速1872mとかなり遅いです。
ドアの幅を計算に入れていないので、実際はこれより遅いはずです。
どこをぶつけたかにもよりますが、はたして確実に跡が残ると言い切れるほどの強さだったか疑問が残ります。

こっそりと忍び歩きをしていたでしょうし、勢いよくぶつけようがないでしょう。

本編では足を痛めているようでしたので、踝辺りにクリティカルヒットしたのでしょうか。


以上のように、考えてみると言い逃れが可能な状況証拠や存在するかわからない物的証拠ぐらいしか梨子の手札はありません。
もしも自分が梨子の立場なら、この場での追及は躊躇うでしょう。
それでもなお、梨子が行けると踏んで全員の前で追及したのはなぜでしょうか?

これは、梨子がダイヤの性格を熟知していたからだと思われます。
アニメの九話でも梨子はダイヤの不審な行動を指摘して、三年生の過去について聞き出すことに成功しています。
状況証拠を並べ立て、強い口調で追及すれば決定的な証拠がなくても白状するであろうという見込みが梨子にはあったのでしょう。
また、足の跡についてですが、これははったりじゃないかと自分は考えています。
少なくとも、確実に跡が残っているとは考えていなかったと思います。
梨子が足を見せてくださいと言っているので、ダイヤの足は外見からは判別出来ずわざわざ見せないと見えないようになっていたのでしょう。
靴下か何かを履いていたと推測出来ますが、そうするとダイヤは自分でも足に跡が残っているか確認するタイミングはなかったと思われます。
足の痛みを我慢しながら、なんとか犯人を特定するという流れを断ち切ろうとした。
そして、その時に梨子はダイヤが痛めた足を庇っている事に気付いたのではないでしょうか?
ダイヤの「躓いた」発言が出た段階ですぐに疑っていたならダイヤを重点的に観察することは出来たので、可能性は十分にあります。
ダイヤの性格から考えて、体に物的証拠が残っているはずだから見せろと言われて、素直に応じない事は分かっていたでしょう。
それを読んだうえで、架空の物的証拠が確実に存在するというはったりをダイヤに信じ込ませたのではないでしょうか。
これが犯罪捜査なら仮に自白したとしても、結局は物的証拠が必要になるのでこの手段は使えません。
ですが、これは犯罪捜査ではないので、それが明示される必要はないのです。
「何もやましい事がなければ見せられるはず。頑なに拒否しているってことはやはり犯人はダイヤさんなんじゃ……」
周りはこう思わせられれば十分です。。
その空気に耐え切れず白状する、というのが梨子の本来の筋書きだったのではないでしょうか。

結果としては、そうなるよりも早く自爆しましたが。


〇結論

桜内梨子は探偵役に相応しい観察眼を持って犯人を特定し、最後ははったりを交えながら犯人を精神的に追い詰めて自白させました。
犯罪捜査のような世界で通用するかはともかく、日常ミステリの探偵役としては十分な能力を持った子なのではないでしょうか。

 

 

 

長い、この間書いた掌編よりも長いです。

しかし、梨子は声質もあったか、思っていた以上に探偵役をやらせると様になりますね。いつか自分も彼女を探偵役に短編を一本書いてみたいなと思います。